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横浜地方裁判所 昭和41年(行ウ)19号 判決

原告 株式会社 志んどう

被告 横須賀税務署長

訴訟代理人 青木康 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

「被告が、原告の昭和三八事業年度の法人税について、昭和四〇年六月三〇日にした課税標準額金六、一二三、六二三円、法人税額金二、八一四、一八〇円、過少申告加算税額金一四〇、七〇〇円とする旨の更正決定および昭和四四年三月二五日にした課税標準額金六、一二三、六二三円、法人税額金二、四六八、七〇〇円過少申告加算税額金一二三、四〇〇円とする旨の再更正決定は、それぞれ、課税標準額金三、八二一、〇八四円、法人税額金一、四六七、三六〇円過少申告加算税額金七三、三五〇円を越える部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、原告の請求原因

一、原告は被告に対し昭和三八年二月一日から昭和三九年一月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税の確定申告書(欠損額金一七、九八九、〇二六円、法人税額〇円)を法定申告期限内に提出し、さらに昭和四〇年六月一七日右確定申告書に対する修正申告書(欠損金額九、五三〇、六四三円、法人税額〇円)を提出した。ところが、被告は昭和四〇年六月三〇日付で課税標準額金六、一二三、六二三円、法人税額金二、八一四、一八〇円、過少申告加算税額金一四〇、七四〇円とそれぞれ更正処分(以下「本件更正」ともいう)をし、原告は昭和四〇年七月三一日被告に対し異議申立をしたが、被告は昭和四〇年一〇月二〇日これを棄却したので、原告はさらに昭和四〇年一一月二〇日東京国税局長に対して審査請求をしたところ、右局長は昭和四一年七月二〇日これを棄却する旨の裁決をし、同年八月一日付で原告に対し裁決書謄本の送付通知書を送付し、右は同年八月三日原告に送達された。その後被告は原告が右更正処分の取消を求めて争訟中の昭和四四年三月二五日課税標準額金六、一二三、六二三円、法人税額金二、四六八、七〇〇円、過少申告加算税額金一二三、四〇〇円と再更正処分をした。(以下「本件再更正」ともいう。)

二、原告が昭和三八年八月二二日訴外東京建物株式会社(以下単に「東京建物」という。)から訴訟上の和解により受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円のうち金四、九〇六、〇〇〇円は、原告が訴外浦野忠義から賃借していた横須賀市若松町三丁目一四番地の二所在家屋番号一〇〇番鉄骨亜鉛二階建倉庫(以下「本件建物」という。)を飲食店に改造して使用収益して来た当該改造部分(以下「建物附属設備」という。)の譲渡代金に相当するものであり、そのうち金二、三二五、〇三三円は当該建物附属設備の譲渡金に相当する金額であつて、租税特別措置法(原告の本件事業年度に適用されるべきものをいう。以下、単に「租特法」という。)第六五条の五に該当するものとして、損金に算入されるべきものである。ところで、右の建物附属設備の譲渡価額は、各事業年度において当該建物附属設備に投下した資本的支出金額を基礎として、木造建築費の倍率および木造建物の減価償却率により計算して得た復成価額を当該建物附属設備の時価とみなして定めたものであり、譲渡益は譲渡価額から当該建物附属設備の帳簿価額金二、五八一、〇〇一円を控除して計算したものである。したがつて当該事業年度の所得金額は三、八二一、〇八四円、法人税額は、一、四六七、三六〇円が正当であつて、被告の本件更正および再更正はいずれも誤つている。よつて、本件更正および本件事業年度の法人税額を金二、四六八、七〇〇円、その基礎となる課税標準額を金六、一二三、六二三円とする旨の本件再更正のうち、違法に換金として差引かないことによつて所得額金二、三〇二、五三九円が多く計算されているので、課税標準額金三、八二一、〇八四円、法人税額金一、四六七、三六〇円、過少申告加算税額金七三、三五〇円を超える部分の取消しを求めるものである。

第三、被告の答弁および主張

一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項は、原告が訴外浦野忠義から賃借していた本件建物の明渡しに関して原告主張の日に東京建物から訴訟上の和解に基づき金二二、〇〇〇、〇〇〇円を受領したことは認めるが、その他の事実は争う。

三、本件更正および再更正の理由は、次のとおりである。

(一)  原告は、訴外浦野忠義から本件建物を賃借し、同所において飲食店を経営していたのであるが、昭和三七年八月一七日右浦野が本件建物を東京建物に譲渡したことに伴い、昭和三八年八月二二日に東京建物から金二二、〇〇〇、〇〇〇円を受領した。

(二)  原告は、東京建物から立退料として受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円の全額が右建物に対して原告がした内部造作の譲渡対価であるから租特法第六五条の四、五の各適用があるとして、その旨被告に対し確定申告をした。

原告のした右申告の基礎となつた一連の計算の仕訳は次のとおりである。

借方 貸方

1、現金        二二、〇〇〇、〇〇〇 雑益     二二、〇〇〇、〇〇〇

2、雑損         二、八四四、三〇一 建物      二、五八一、〇〇一

現金(譲渡経費)  二六三、三〇〇

3、建物         一、七三三、二〇一 現金      一、七三三、二〇一

4、買換建物勘定特別償却 一、五〇九、一二一 建物      一、五〇九、一二一

(租特法第六五条の四による)

5、買換資産特別勘定繰入損 一七、六四六、五七八 買換資産特別勘定 一七、六四六、五七八

(租特法第六五条の五による)

以上のとおり、原告は東京建物から受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円の全額を建物附属設備の譲渡対価であるとして租特法第六五条の四、第六五条の五を適用したので、本件建物立退きに関し、次のとおり本件事業年度は全く利益金がないとして申告した。

(1) 益金としたもの

東京建物から受領した金員(立退料) 二二、〇〇〇、〇〇〇円

(2) 損金としたもの

(イ) 建物除却損       二、五八一、〇〇一円

(ロ) 立退に要した経費      二六三、三〇〇円

(ハ) 買換建物勘定特別償却  一、五〇九、一二一円

(ニ) 特別勘定繰入れ損   一七、六四六、五七八円

小計         二二、〇〇〇、〇〇〇円

差引(1―2)                 〇円

(三)  そこで被告が原告の法人税に関して調査をしたところ、原告が建物を譲渡したとの申告は建物附属設備の誤りであり、かつ、右訴外会社から受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円は譲渡対価ではなくして立退料であることが判明した。したがつて、右金二二、〇〇〇、〇〇〇円のうちにはもともと建物附属設備の譲渡対価は含まれていないので、この場合租特法第六五条の五を適用すべきではない。そこで被告は、右法条を適用して申告した原告の主張を更正したのである。すなわち前記(二)の(2)の原告が損金としたもののうち、(ハ)と(ニ)について次のとおり更正して原告の申告所得に加算した。

1、買換建物勘定特別償却として当期中に取得した建物勘定から控除して損金処理をした金一、五〇九、一二一円は、法人税法施行細則(昭和二二年三月三一日大蔵省令第三〇号)第六条により該建物の減価償却をしたものとみなし、その取得価額金一、七三三、二〇一円を基礎として計算される同細則第三条の二による償却範囲額の金四七、三七四円をこえる金一、四六一、七四七円を減価償却超過額として原告の申告所得に加算した。(同細則第三条の五)

2、特別勘定繰入れ損として金一七、六四六、五七八円を損金として処理したことは租特法を適用したものである。したがつて前述のように同法を適用する余地がないので、原告の右特別勘定繰入れについての損金処理を更正して原告の申告所得に加算した。

(四)  以上の過程を経て、被告は次のような本件更正を行つた。

1、原告の提出した申告欠損金額     九、五三〇、六四三円

2、所得に加算した額

減価償却の償却超過額((三)の1)     一、四六一、七四七円

買換資産特別a/c繰入否認((三)の2) 一七、六四六、五七八円

小計                   一九、一〇八、三二五円

3、所得より減算した額

寄附金の限度超過額として申告加算した額       二、三七五円

前期より繰越した欠損金額          三、四五一、六八四円

小計                    三、四五四、〇五九円

4、差引所得金額            六、一二三、六二三円

5、法人税額              二、八一四、一八〇円

6、過少申告加算税額            一四〇、七四〇円

以上のとおりであるから、本件更正は後に本件再更正で一部取消された部分を除いては、適法である。

(五)  本件再更正の理由はつぎのとおりである。

課税標準額金六、一二三、六二三円は同一であるが、これに対する本税金二、二二六、七四〇円、法人税法一七条の二第一項の税額金二四八、八〇〇円の合計額から同法一〇条による所得税控除額金六、八三七円を差引いた金二、四六八、七〇〇円が法人税であり、過少申告加算税は金一二三、四〇〇円と計算されたので、その旨再更正した。したがつて、本件再更正は適法である。

第四、原告の反対主張

一、被告主張中(一)(二)(四)(五)の事実は認めるが、(三)の事実を争う。

二、前記更正による買換資産特別a/c繰入否認額金一七、六四六、五七八円のうち、金二、三二五、〇三三円は本件建物附属設備の譲渡益に相当する金額であつて、租特法第六四条の四、五に該当するものであり、当然損金に算入するべきものである。その理由は次のとおりである。

(一)  原告が東京建物から裁判上の和解によつて受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円のうちには、原告が本件建物に取付けた造作等「建物附属設備」の代金が含まれているものである。すなわち、原告は昭和二五年一二月に訴外浦野忠義から倉庫を賃借し、これを店舗に改造して以来和解成立までの間、数次にわたり必要費、有益費を投じて飲食店を営業したものであるところ、東京建物への明渡しに際して、右建物に搬出不可能ないし困難な造作が多数存在し、和解条項第一項にも「移転費用その他一切の補償として」金二二、〇〇〇、〇〇〇円が授受された旨明記されているのである。これは、原告がこれまで本件建物に投下して来た資本回収部分を含めて右金額が考慮せられたことを示しており、取引の実情にも叶うものである。

(二)  租特法第六五条の四、第六五条の五は建物附属設備の単独譲渡の場合にも適用がある。すなわち、租特法第六五条の四、五による特定資産買換えの場合の課税特例の立法趣旨は、従来所有していた設備資産を譲渡して新たに他の設備資産を取得する場合に当該資産の譲渡による利益は物価の騰貴等による名目に過ぎず、この譲渡益に課税されるときは譲渡によつて得た利益がそれだけ減少して次に譲渡資産と同程度の設備資産を取得できなくなる点を考慮して右二箇条が設けられたものであるところ、

1、建物附属設備は設備資産として相当重要であり、とくに最近鉄筋ビルをコンクリートの打ち終つた段階で賃借し、これに内部造作を施して使用する場合には建物附属設備に要する費用が、コンクリート打ちまでの建物費用の二倍を越える事例まで見られるので、必らずしも建物と一体となつて譲渡したものでない場合にも、該法条を適用すべき経済上の必要性が存在し、取引の実態にも合致している。

2、租特法第六五条の四第一項第二号「建物及びその附属設備」は、法文の解釈上も、建物附属設備を単独で譲渡した場合にも該当するものと解される。すなわち、

(イ) 租特法第一三条の二第一項および第四六条第一項に「建物及びその附属設備」という同一文言が存在するが、右規定は減価償却の割増償却を認めるものであるところ、右法条の「その附属設備」は、単独の建物附属設備にも適用されることが解釈上明らかであるが、同一法律中の同一文言は特別の理由がないかぎり同一に解釈されるべきである。

(ロ) 法人税法(本件事業年度に適用されるものをいう、以下同じ。)第九条の八により委任された政令である法人税法施行細則第二一条第一項「建物及びその附属設備」という同一文言があり、右は減価償却に関する規定であるが、そこでは造作の単独減価償却が認められていることは税務行政上明白であり、租特法が一般法である法人税法の用語の用い方と異なる用法を用いたものとは解されない。

(ハ) 租特法第六五条の四に関する国税庁長官通達(昭和三八年九月一四日直審第二〇四号)によれば、「その附属設備」につき譲渡する場合とは「建物と一体となつて譲渡した附属設備」に限定し、新たに取得する場合には「単独の附属設備でも差し支えない」と定められているのであるが同一条文の同一用語を譲渡の場合と取得の場合とで異別に適用することは憲法に基づく租税法定主義に反するものである。しかして本件更正は右通達の趣旨に則りなされたものと考えられるが、右通達は昭和三八年九月一四日に示達されてあり本件譲渡が同年八月二二日になされていることよりして本件が右通達の拘束を受けるものではない。

第五、被告の反論

一、原告が訴外会社から受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円は、原告が浦野忠義から賃借していた本件建物の立退料として支払われたものであつて、その中には原告主張のような造作等の譲渡代金は全然含まれていない。したがつて、租特法第六五条の四第一項第二号にいう「建物及びその附属設備」の意義を問うまでもなく同法第六五条の五を本件に適用する余地はない。すなわち原告主張の建物附属設備について独立の所有権を認めうるか否かについても問題の存するところ、原告が右和解によつて本件建物を立退くことになつたのは訴外株式会社協和銀行がその支店の新築用地として本件土地の借地権を取得したいと考え、東京建物にその買収にあたらしたものであるが、原告が容易に立退きに応じないため、止むなく東京建物において原告と交渉し昭和三八年八月に至つて前記和解が成立した。したがつて、右経過および前記和解条項第一項、同第六項「第一項に備付たる造作その他備品、看板を明渡期限内に搬出することを承諾する」の各記載に照らしても、訴外協和銀行、東京建物のいずれにとつても原告主張のような建物附属設備は不必要であつたのであり、これを買取る意思はなかつたものである。

二、租特法第六五条の四の規定はもともと同条所定の特定資産を譲渡したことによつてその譲渡をした法人に譲渡益が発生した場合についての課税の特例に関する規定であるから、一般に相当額の譲渡益が発生しないような種類の資産の譲渡は同条の規定の対象外である。しかるに、建物の附属設備は、一般にその建物と一体となつて利用されてこそ利用価値のあるものであり、またその建物と一体として取引されてこそ取引価値を有しうるものであつて、建物から切り離されては廃材となりほとんど無価値となつてしまう性質のものである。それ故に同法第六五条の四第一項第二号は当初から建物附属設備がその建物と一体となつて譲渡される場合についてのみ適用される規定として設けられ運用されて来たものである。

三、仮に右金二二、〇〇〇、〇〇〇円の中に原告主張のように建物附属設備の対価が含まれているとしても、右対価の額は確定し得ないものであつて、原告は金額的に不確定な要素をもつて処分の取消しの訴えを提起したものであり、結局原告は、抗告訴訟に名をかりて租特法第六五条の四の抽象的な法令の解釈を争つているのに過ぎないものである。すなわち、前記のように本件家屋の取得者は本件土地の借地権を取得することが目的であつて本件家屋の利用はその目的ではない。したがつて、家屋の取得者が原告と同種の営業を営むためにそれを取得したものであればともかく、独立して建物附属設備の時価を算定することはできない筈であるが、原告は、各事業年度の建物附属設備に対して投下した資本的支出金額に建築費上昇の倍率を乗じて算出した金額より減価償却額を控除した残額をもつて復成価額(時価)とし、復成価額の算定に当つては減価償却率は定額法の償却率を適用している。しかし原告は、従来より有形固定資産についての減価償却方法は定率法で行つて来たものであるから、右の計算方式には誤りがあり、また建物附属設備の場合に木造家屋の建築費指数を適用することも誤つている。そして、被告が原告主張の資本的支出金額および建築費の上昇倍率を引用して定率法の償却率により減価償却額を計算したところ、復成価額は金三、八五三、三七三円であつた。この金額算定の基礎は各事業年度において投下した資本的支出金額を該建物附属設備の除却年度における時価に復原したものであるが、原告の計算では各事業年度の中途でした資本的支出金額に対する右支出年度の減価償却額の計算は、期間按分等の計算を一切行つていないものであり、より正確に期間按分等の計算をすれば、復成価額も当然右金額を下回ることとなるのであつて、到底、原告主張の金四、九〇六、〇三四円には及ばないこととなるのである。

第六、証拠〈省略〉

理由

一、本件更正処分に至る経過

つぎの事実は当事者間に争いがない。

(1)  原告は昭和二五年一二月訴外浦野忠義から横須賀市若松町三丁目一四番地の二(以下「本件土地」という。)所在家屋番号第一〇〇番鉄骨亜鉛葺二階建倉庫を賃借してこれを店舗(飲食店、階下は食堂、二階は宴会用座敷、以下本件建物という。)に改造し、以後数次にわたり必要費、有益費を投入して造作を取付け(本件建物附属設備)飲食店を営んで来たところ、訴外株式会社協和銀行(以下「協和銀行」という。)はその支店の新築用地として本件土地の借地権を取得しようと考え、東京建物に依頼して本件土地の借地権の買取にあたらせた。そこで東京建物は、協和銀行との間に昭和三七年八月一六日本件土地の借地権の売買契約を締結し、昭和三八年三月末日までに本件建物その他の工作物をすべて収去し本件土地を更地の状態で引渡すべきことを約し、さらに、東京建物はその翌日(昭和三七年八月一七日)訴外浦野忠義から、借家人の原告を同訴外人の責任で昭和三八年一月三一日までに立退かせるとの約定で、本件家屋およびその敷地である本件土地の借地権を買い受けた。同訴外人は原告と交渉したが話し合いがつかず、東京建物と原告とが直接交渉した結果、昭和三八年八月二二日原告と東京建物との間に訴訟上の和解が成立し、その内容は、(一)原告は、東京建物に対し本件建物を昭和三八年九月三〇日限り明渡し、東京建物は原告に対し金二二、〇〇〇、〇〇〇円也を支払う。(二)東京建物は原告に対し、右金二二、〇〇〇、〇〇〇円也の内金一一、〇〇〇、〇〇〇円を右和解成立のとき支払い、残額金一一、〇〇〇、〇〇〇円を右期限内に明渡完了したときに支払う。(六)東京建物は原告が本件建物に備付けた造作その他の備品、看板を明渡期限内に搬出することを承諾することであり、原告は右和解条項に基き右期限に明渡し、昭和三八年八月二二日東京建物から金二二、〇〇〇、〇〇〇円を受領した。

(2)  原告は、昭和三八年二月一日から昭和三九年一月三一日までの本件事業年度の法人税について、確定申告書(欠損金額一七、九八九、〇二六円、法人税額〇円)を法定申告期限内に被告に提出し、ついで昭和四〇年六月一七日右確定申告に対する修正申告書(欠損金額九、五三〇、六四三円、法人税額〇円)を被告に提出したが、この申告において原告は、東京建物から受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円のうち、本件事業年度中に建物の取得にあてた金一、七三三、二〇一円については買換資産の取得であるとして、租特法第六五条の四の、残額の金二〇、二六六、七九九円については同法第六五条の五の各課税特例の適用を求め、本件建物明渡に関して得た金二二、〇〇〇、〇〇〇円をいずれも損金に算入した(その内訳は、(イ)建物除去費金二、五八一、〇〇一円、(ロ)立退に要した経費金二六三、三〇〇円、(ハ)買換建物勘定特別償却金一、五〇九、一二一円、(ニ)特別勘定繰入れ損金一七、六四六、五七八円、合計金二二、〇〇〇、〇〇〇円である)。ところが、被告は、原告の右の処理を認めず、昭和四〇年六月三〇日右損金内訳のうち、(ハ)については法人税法施行細則(昭和二二年三月三一日大蔵省令第三〇〇号)第六条により本件建物の減価償却をしたものとみなし、その取得価額金一、七三三、二〇一円を基礎として計算される同細則第三条の二による償却範囲額の金四七、三七四円を超える額金一、四六一、七四七円を減価償却超過額として原告の申告所得に加算し、(二)については原告の租特法適用による買換資産特別勘定繰入れについての損金処理を否認して原告の申告所得に加算し、所得減算額合計金三、四五四、〇五九円との差引所得額六、一二三、六二三円、法人税額金二、八一四、一八〇円、過少申告加算税額金一四〇、七四〇円として本件更正処分をした。これに対し、原告は所定の手続に従い昭和四〇年一一月一九日東京国税局長に対して審査請求(所得額金三、七九八、五九〇円、法人税額金一、四六三、八三〇円)をしたところ、同国税局長は昭和四一年七月二〇日同請求を棄却する旨裁決し、昭和四一年八月三日原告に対し右裁決書の謄本を送達した。原告は、被告の本件更正処分の取消しを求めるべく当裁判所に提訴中のところ、昭和四四年三月二五日被告は原告の本件事業年度の法人税額を金二、四六八、七〇〇円に、過少申告加算税額を金一二三、四〇〇円に各減額する本件再更正処分をした。

二、原告が東京建物から受領した金二二、〇〇〇、〇〇〇円の中には本件建物附属設備の譲渡代金相当額が含まれており、租特法により所得額から、減算されるべき旨の原告主張について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第四号証、原本の存在と成立が争いのない甲第六号証、証人浦野忠義の証言によつて、各成立が認められる乙第五号証の一、二、証人大神三千雄、同浦野忠義の各証言、原告代表者尋問の結果を総合すると、つぎの事実が認められる。

原告が東京建物から和解により支払を受けた金二二、〇〇〇、〇〇〇円のうちには、本件建物の賃借権の価額、原告の本件建物での飲食店舗営業権の補償立退くに際しての移転費用、新たに他の店を開く際の建物借入資金のほか、本件建物に投下した建物造作代金の代価、ことに、廊下、階段、天井、床、カウンター、配線設備、給排水設備、衛生設備、ガス設備等の設備費用の一切が包含されていた。

しかし、東京建物は土地の取得利用が目的で、本件建物を取壊すことになつていたので原告が本件建物に備え付けた造作のうち取外し可能なものを原告が搬出することができる旨約定した。

右認定に反する乙第四号証(浦野忠義の東京国税局員に対する供述調書)によると、「原告が和解条項によつても搬出できない造作は、床板二〇坪程、カウンター、食器棚、調理台で約金一〇〇、〇〇〇円相当にすぎず、畳建具はもとより鉄骨まで原告が取壊しの上これを自己の所有として搬出利用しているから、金二二〇、〇〇〇、〇〇〇円の中には、造作代金は入つておらず、立退料にすぎない。」旨記載があるが、同人の証言とその趣旨において矛盾しているので、その記載内容について、にわかに信用することができない。他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によると、原告が東京建物から和解により支払を受けた金二二、〇〇〇、〇〇〇円の中には、その額についてはともかく原告主張の本件建物附属設備の譲渡代金が含まれているものというほかない。

(二)  一般に、同法第六五条の四、第六五条の五の立法趣旨は、企業の資本充実の原則の観点から、企業会計上特定資産の買換の場合に当該譲渡の日から一年以内に買換資産を取得して事業の用に供し、または供しようとした場合は、当該買換資産について課税の特例を設けるものであるが、これは造作等の「建物附属設備」について考察すれば、経済的にみて、造作等は、一般にそれ自体としての独立性がなく、通常建物と一体となつてはじめてその利用価値を発揮し、建物と合わせてその所有権または賃借権の譲渡の対象となつた場合はじめて取引価値を有するものである。そして、造作部分は、特別の事情がない限り当該建物に附合し、法律上独立して取引の対象とすることはできない。したがつて、経済的にみても法律的にみても、通常は造作自体の買換えということは考えられない。時の経過と経済事情の変遷で造作部分の価値が上昇した場合、これを経済的に評価できるけれども、その基本となる造作部分の買換えが考えられない以上、右評価額を同法の買換えのための損金として計算することは許されないというほかない。本件で、前記認定事実によると、本件建物附属設備は造作部分としての本件建物に附合し独立に取引の対象となるものではなく、その買換えが考えられないから、その価額上昇部分の評価額を買換えのための損金として計算することはできず、これを減算しなかつた本件更正処分は適法である。

原告は、同一法律の同一用語は能うかぎり同一に解すべきものとして租特法第一三条の二第一項、同第四六条第一項の「建物及びその附属設備」の解釈が単独の建物附属設備の減価償却が認められていることを挙げるが、右の規定は特定の場合に減価償却における割増償却を認める規定であつて特定資産の買換の場合とは立法趣旨、目的を異にしているばかりではなく、本件更正処分では、造作費用の帳簿価額金二、五八一、〇〇一円は損金として減算ずみであり、減価償却ずみとみることもでき、原告の右主張は理由がない。さらに、原告は租特法の一般法である法人税法の第九条の八による委任法令の法人税法施行規則第二一条第一項「建物及びその附属設備」の解釈が単独の建物附属設備にも適用されていることを理由とするが、右規定も減価償却に関する規定であつて租特法第六五条の四、五とは、規定の趣旨、目的を異にしている以上これを同一に解釈すべき必要性はないから右主張も理由がない。

(三)  それ故、原告が取得した金二二、〇〇〇、〇〇〇円の中には造作費用を含むけれども、本件建物附属設備の譲渡が同法第六五条の四第一項第二号の建物及び「その附属設備」の譲渡に当らず、所得額から減算されないというほかないから、この点に関する原告主張は失当である。

三、右説示によると、本件更正処分は右の造作費用上昇額部分を租特法により減算しなかつた点に違法性はない。しかし、本件更正処分には計算自体に誤謬があり(この点は被告が自認する)その範囲で違法であつたが、本件再更正処分によつて、右違法な部分は取消されている。したがつて、本件更正処分中、国税通則法第二九条により確定している部分は、違法であるというほかない。

四、原告は本件再更正処分に対しては、所定の異議申立、審査請求の手続を経ていないが、国税通則法第八七条第一項第三号により、本件再更正処分を争うことは適法であり、また、請求の基礎を同一にするから、本件再更正処分の訴の追加も適法である。本件再更正処分が造作費用の上昇額部分を租特法により減算しないことが適法であることについては、本件更正処分に対する判断と同一である。

五、よつて、原告の本訴請求は失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田良正 高木積夫 秋山賢三)

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